SFR-Mesh、新たなステージへ

Flex Fleet株式会社代表取締役 佐藤 貴久(7K2LGO-NY6A)は、2026年10月14日に「SFR-Mesh」の末端側接続制御システムを開発いたしました。 これまで頭脳側であるLUTG制御の開発に成功しシステム構築を行ってきましたが、先日完成したI/Fボードを活用し、構想であった末端側での制御を開発・実装し連携に成功しました。

今後も皆様が楽しめるシステムの研究や普及に貢献できるよう努力します。

SFR-Mesh、新たなステージへ

― OOB-Linkの開通と、DMR Tier 2.5への挑戦 ―

かねてからの悲願であった、サーバー側のSSOT(SFR-Meshの頭脳部分)と現地のホットスポット(HS)を直接結ぶ、OOB-Link(Out-of-Band Link:帯域外制御チャネル) がついに開通しました。

これは単なる新機能の追加ではありません。

これまでLUTG制御の開発によりこれまでにない交換システムの構築を実現できましたが、更にそれを活かすうえで欠かせない外的要因の能動的な制御が弱点でした。

SFR-Meshが、音声通信の結果を受けて動作するネットワークから、現地の状態を把握し、双方が協調して動作するネットワークへと進化する、大きな節目だと考えています。

■ なぜ帯域外制御が必要だったのか

SFR-Meshでは、サーバー側でOriginとTargetを結ぶ4つのコネクターを制御し、双方向の音声通信を動的に構成しています。

その中心にあるSSOTは、接続先の選択から、通信の確立、維持、切断まで、複雑なセッション管理を一元的に担っています。

しかし、どれほどサーバー側の制御を高度化しても、従来のDMR Tier IIには根本的な制約がありました。

それは、サーバーが現地の状態を十分に把握できず、通信の結果を受け取ってから処理するしかないという問題です。

音声ストリームを頼りにする従来の仕組みでは、通信経路の遅延や状態変化によって、意図しない同時送信や送信権の競合が発生します。

さらに、日本で一般的に使われているシステムでは、コールサインを送出する音声ID装置が、現地の無線機にマイク入力として音声を加える構成が少なくありません。

このローカルな入力は、場合によってはDMRネットワーク側のデジタル制御よりも強い送信優先権を持ってしまいます。

その結果、本来最も優先して守るべき現地の移動局やアクセス局の通信が、音声ID装置によって妨げられるという、本末転倒な状況が起きていました。

ネットワーク側でどれほど巧妙な制御を行っても、現地の無線機が独立して動作する限り、サーバーから手の届かない領域が残っていたのです。

■ OOB-Linkによる協調制御

今回、この問題に対処するため、DMRの音声経路とは独立した双方向の制御チャネルを構築しました。

これがOOB-Linkです。

音声ストリームに依存せず、サーバーと現地HSが直接状態情報や制御情報を交換できるようになりました。

現時点で実装された機能は、まだ限られています。

その最初の成果が、Meshセッション中の音声ID送出の協調制御です。

Meshセッションが成立すると、OriginとTarget双方のHSがその状態を認識し、通常の音声ID送出やカーチャンクへの応答を抑制します。

これにより、通信中に現地の音声ID装置が突然送信を始め、移動局の通信を妨げることを防ぎます。

さらに、10分ごとに必要となる識別送出についても、両側でタイミングを協調させ、可能な限り短い通信の切れ目に収めることで、要件を満たしながら通信への影響を最小限に抑えることを目指しています。

これまでは、それぞれの装置が独立して判断していた動作を、ネットワーク全体の状態に基づいて協調させるわけです。

OOB-Linkの接続が確立すると、HSのWebUIには「作動中 – OOB Link確立」と表示されます。

さらに、Meshセッション中に音声IDの抑制が有効になると、「OOB Link協調制御中」という赤いバッジが表示されます。

これらは単なる表示ではなく、サーバーと現地HSが実際に制御情報を交換し、協調動作していることを示しています。

■ 4つのオープンループへの挑戦

これまでのSFR-Meshには、構造的に大きな課題がありました。

通信経路を単純化すると、次のようになります。

サーバー ⇔ HS(ホットスポット) ⇔ RF移動局

この経路には、サーバーとHSの間、HSとRF移動局の間という、2つの制御上のオープンループがあります。

これがOrigin側とTarget側の双方に存在するため、全体では4か所になります。

それぞれの区間で遅延や状態の食い違いが発生し、さらに現地の送信権の競合などが重なることで、問題は複雑になります。

仮に各オープンループに2つの状態があるとする単純な概念モデルでは、4か所の組み合わせは2の4乗、つまり16通りです。

このうち2か所を協調制御の下に置ければ、不確実な組み合わせは2の2乗、4通りに減らせるという考え方です。

もちろん、実際の障害発生率が16分の4になるという意味ではありません。

重要なのは、これまで制御できなかった場所を制御下に置くことで、システム全体の不確実性を根本から減らせるということです。

これまでもSFR-Meshには、通信の遅延を吸収し、不要な切断を防ぎ、音声ストリームを可能な限り維持するための仕組みを随所に組み込んできました。

しかし、それらは多くの場合、問題が発生した後に影響を抑えるための工夫でした。

今回のOOB-Linkによって、問題が発生する場所そのものに制御を近づけ、従来は事後的に対処するしかなかった現象を、事前に防ぐ道が開けたのです。

これは、単なる応答速度の改善以上に重要なことだと考えています。

■ DMR Tier 2.5という考え方

DMR Tier IIIのトランキングシステムには、ネットワークが移動局の動作を管理するための仕組みがあります。

しかし、現在日本で広く利用されているDMR Tier II環境では、同じような集中制御を行うことはできません。

特にSFR-Meshが扱うSFRの通信は、現地の無線機や移動局が自律的に動作することを前提としています。

通信の成立条件が動的に変化する一方で、ネットワーク側からRF区間のすべてを制御することはできません。

それでも、既存のDMR Tier IIの仕組みを壊さず、可能な限り現場の最前線まで制御の手を伸ばしたい。

これが、今回のOOB-Link開発の根底にある考え方です。

Tier IIIのようなトランキングシステムを作るわけではありません。

しかし、Tier IIの基本構造を維持しながら、その外側に協調制御の仕組みを積み重ねることで、従来のTier IIだけでは難しかった動作を実現していきます。

私はこれを、半分冗談で 「DMR Tier 2.5」 と呼んでいます。

もっとも、半分は本気です。

もちろん正式な規格名称ではありませんが、目指している方向性を表すには、なかなかよい呼び方ではないかと思っています。

■ ここまでの道のり、そしてこれから

この仕組みを実現するため、長い時間をかけてSFR-MeshのCOREを整備してきました。

LUTGによる動的な接続管理、SSOTを中心としたセッション制御、通信の競合や切断に対する数々の保護機構。

さらに、現地HSのソフトウェアを作り直し、専用のI/Fボードを開発し、PTT Managerによる送信制御の基盤を構築しました。

そして今回、ようやくサーバーと現地HSを結ぶOOB-Linkが開通しました。

ここで特に重要なのは、完成したCOREの制御機構を作り直すことなく、外側に新しい制御機能を追加できたことです。

OOB-Linkを搭載していないHSでも、従来のSFR-Meshはそのまま動作します。

一方、OOB-Linkを搭載したHSでは、より高度な協調制御を利用できます。

つまり、既存の仕組みを守りながら、段階的に機能を発展させられる構造が実現したのです。

今後は、この制御チャネルを活用し、送信機の温度異常による接続抑制、現地のBUSY状態を考慮した接続判断、さらには音声認識による動的な接続制御などにも取り組んでいきたいと考えています。

いずれも目的は同じです。

既存技術の限界を理解し、その限界を補いながら、現地の通信をできる限り守ること。

ネットワークの高度化は、そのための手段にすぎません。

最も大切なのは、実際に電波を使って通信する移動局やアクセス局です。

サーバー側の都合や自動制御のために、現地のRF通信が犠牲になってはならないと考えています。

SFR-Meshは、単に音声を中継するネットワークから、現地の状態を理解し、相互に協調しながら通信を守るネットワークへと進化し始めました。

今回のOOB-Link開通は、その大きな第一歩です。